医療機関インタビュー
淀川キリスト教病院
~定時で帰る医師とそれをカバーする医師の労働時間の不均衡を是正する取り組み~
所在地 | 大阪府大阪市淀川区 |
病床数 | 581床 |
主たる医療機能 | 急性期機能 |
職員数 | 1,650人 (医師207人、看護職689人、医師事務作業補助者48人、看護補助者57人) |
インタビュー記事
宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院は病院大阪府大阪市東淀川区にある病院である。
産科は周産期専門病院として出産、早産、妊娠合併症管理などの産科高次医療に携わり、婦人科疾患の手術、抗がん剤、放射線照射、緩和医療などを行っている。周産期医療や小児医療に女性医師が多い。
医療勤務環境改善の取組みについて産婦人科部長 丸尾伸之様、副医長 柴田綾子様に話を聞いた。
○医療勤務環境改善に着手したきっかけを教えてください
勤務医の離脱が進んでおり、開業やフリーランスへ流れてしまう状況にある。人材派遣会社が入ることで報酬が上がってしまい、ミスマッチして構造的に変えることが難しくなっているという課題がある。新専門医制度などもあるが特に若い方が定着しなくなっている。
女性医師の中で、同じ常勤医でも妊娠・出産・育児などする人としない人で様々な差が生まれ、フェアではないという不満が大きくなり、議論となった。
勤務時間が限られている人たちと、それをカバーする人たちに分かれており、カバーする側の勤務時間が長くなっていた。いかに均衡状態に持っていくかというのが大きなきっかけであった。男性医師の育児休暇、親の介護問題など、必ずしも女性だけの問題ではないと考えた。
医師8名体制だったが産休などもあり、最も少ない時期で独身女性医師2名・男性3名という体制で年間の分娩件数が1200件という状況だった。外来などは非常勤医師もヘルプに当たっていたが、やはり30時間連続勤務という状況が常態化していた。
特に年齢の若い独身医師二人に大きく負担がかかっていたおり、いつまでもレジデント的な勤務というわけではないので、フェアな働き方をさせてもらいたいという意見が出てきた。
○取り組みの経緯を教えてください
医師が時間外・夜間に働くことを半強制的な善意の元で受けざるをえない状況でなく、業務としてこの日は誰がカバーするというように前もって分担していくことで、いつも特定の人だけの負担が増えるという状態をなくしていこうということになった。
短期的には可能でも半年1年続くと離職の原因となり、サステイナブルな働き方は難しくなってしまう。
また配置と休暇の管理をする上で、日勤夜勤の情報の引き継ぎや情報共有のあり方も見直す必要があった。
○具体的にどのような取り組みを行ったのですか
-科内での長時間労働の削減
産婦人科は他の科よりも当直の回数が多くなるため、当直した医師が適切に休めるような体制を作ることから始めた。当直した場合、翌日は必ず半休にするようにして、午後は別の担当に任せられるようにした。
加えて当直しない者の業務も改善していくことも必要と考え、主治医制からチーム制に変えていくことにした。面談や緊急な対応、時間外や当直時などは主治医でなくチーム・当直医が対応すると徹底することとした。結果として完全なチーム制は根付かなかったが、自分の担当だけでなく他の担当者の患者についても把握し、状況がわかっているようにしようという意識が生まれた
部長がそういう状況を見て聞き取りをして、自由に働ける人に譲歩できる部分がないか当たってみるということをするようになった。産科では外来・手術・分娩がランダムにその日その日で変わってくるので、どの医師がどのパートを対応しなければならないか、など、部長自身が配置を管理するようになったことで、業務をクリアにして、どこにいつ誰が足りないかを俯瞰して把握できるようになった。
忙しい時期はチームワークで対処して、積極的に休めることを目的に、まず有給を取れるようにして当直明けは別の医師が担当して帰れるよう徹底した。
-情報伝達について
当科では担当患者のカルテに当直時や緊急時の対応を記載しておくこと推奨し、当直医にこういう時はこうしてほしいというコメントを残すよう徹底している。また、入院患者については、特に当直医に対して担当医の方針を電子カルテにきちんと書くようにしている。
特に主治医としてこういう場合はこうするというロジックを明記させ、主治医が不在の場合や外勤の医師が見てもわかりやすいよう簡潔に記入することで、引き継いだ医師も判断がしやすいようになった。
長期的な記録というよりは、短期的、直近1週間、その一晩を問題なく処置できる内容を書くというスタイルにしている。医師によってやり方は違うが、基本はガイドラインをベースにすれば大きく外れることはなく、基本的な記載を電子カルテでおこないつつ予定外の状況、いま動いている状況(昨夜緊急にこんな処置があり、本日はその対処をお願いする等)についてはスマートフォンによる情報共有システムを使用している。
外来、病棟またオペ室において様々な緊急事態が発生している場合、誰が手が空いているかわからないという場合など、ヘルプを調整するために情報共有システム上に書き込むという使い方もしている。(※個人情報は、電子カルテのみに記載)
-院内での不均衡を是正
病院として他科の夏季休暇は5日だが産婦人科は科内調整により2週間の休暇期間をとることにし、所定の夏季休暇以外の部分は有給休暇で補う。また、科内で業務調整し、月に2回平日に有給休暇をとらせるようにしている。そのために昼間いる人数マイナス2~3名という最低限の人数でまわせるように業務配分している。
-人員配置マネージメント
産婦人科は緊急入院・緊急手術・救急搬送など緊急事態が起こりやすく、主治医の不在の場合でも診療が回せる体制が必要である。誰が対応するか、部長が人員配置を采配し、常に最小限・フリーな勤務状態にすることで部長自身が緊急的な状況に対応できる余裕ができ、マネージャ的な役割ができるようになった。
加えて部長の配置が過大となり、ブラックボックス化してしまうと他の者が判断できなくなることを避けるため、業務の分担表を毎朝掲示して、この人はこの時間帯は空いているなど、誰でも状況を把握できるようにして、人員配置のマネジメントプロセスが明確化するようにしている。
○どのような結果成果が得られましたか
時間外労働は4年前は月80~100時間(できるだけ60時間超えないように苦労している)状況であったが現在は30時間程度にまで減少した。
4年前くらいに課題認識をして取り組みを始め、2年ほど前、二交代の夜勤制をトライする際に当直明けの半休についてウェブアンケートを使って聞いたところ、満足度は高かった。、現在は人員が減ったため夜勤制ではない形にしているが、当直明け翌日は完全オフという形にしている。
-ドクターズアシスタントの利用
産科の外来は保険診療でなく自費負担であるにも関わらず外来の待ちが長いという問題があった。婦人科と違い産科はスクリーニング中心のルーチン作業が多くマニュアル化しやすい。外来において医師でなくドクターズアシスタントが記録作業をして、医師は患者との話と診察に集中することで回転を早めている。それにより回転が早くなり待ち時間を少なくすることができた。
エコー診察についても同様で、臨床検査技師による胎児エコーの回数を増やし、ドクターがエコーを行う回数をを減らして外来の待ち時間減少につなげている。
○施策後の取組み(取組み後の振り返り・課題・今後の方針)
サステイナブルな働き方に取り組みつつ、診療内容や件数や質を維持し続けたいというのが目標である。2024年の働き方改革が施行されると、現在の働き方をそのままにするのは無理があり、どこかで医療のクオリティは落とさざるを得ない可能性がある。その濃度差をどこにもっていくかということになるだろう。
今後総合病院では外来業務をできるだけ縮小せざるを得ないので、地域の開業医に任せて、外来業務を連携・共有していくべきだろう。急性期的な手術などが終了後は開業医に戻し、有事にはいつでも総合病院に戻ることが可能、といったかたちで「総合病院と地域の開業医が一体である」ととらえられ、患者がその中で循環できるようにすることで、安心できる医療が求められるのではないかと思う。